
もくじ
1. ごあいさつ
2.獣医さんが解説する治療しづらい嫌な腫瘍の新たな治療法の可能性
3.最後に
ごあいさつ

こんにちは。
オンラインどうぶつ病院Talkvets獣医師の前田です。
昨日コラムにさせてもらった余命が確保しづらい腫瘍は、特に新たな治療法が切実に求められているところだと思います。
今回は、実用化しているものもあれば実験段階のものもありますが、新たな希望となる可能性のある治療法についてご紹介したいと思います。
獣医さんが解説する治療しづらい嫌な腫瘍の新たな治療法の可能性

血管肉腫の新たな治療?
血管肉腫は脾臓での発生が多く、進行性も高く攻撃的な腫瘍です。
手術して他の治療をしなかった場合は約1〜3ヶ月、手術後に抗がん剤をおこなったとしても約5〜6ヶ月程度と言われていて、1年生存率も10%未満と言われていて現行の治療だと十分な結果を出せない腫瘍の一つです。
今回は、この腫瘍に対して希望が持てる報告を2つご紹介したいと思います。
1つ目は、手術と抗がん剤の治療に加えL-MTP-PEというヨーロッパで骨肉腫の治療で承認されている非特異的免疫賦活剤を使用することで生存中央値が273日まで延長したという報告です。
2つ目は、摘出した腫瘍からペプチドワクチンを作成し、手術と抗がん剤に加えて投与することで、全生存期間が手術+抗がん剤だと175日だったものが、275日になり、1年生存期間も手術+抗がん剤だと6.3%だったものが、36.7%になったと報告です。
これらは2つとも、標準治療(手術+抗がん剤)に免疫療法を行なったものになります。
残念ながら、今のところL-MTP-PEもペプチドワクチンも日本国内で臨床的に使用できる場所がないのですが、
ペプチドワクチンに関しては、大学レベルで研究が行われているので臨床適用が待たれるところです。
骨肉腫の新たな治療?
骨肉腫は大型犬の四肢に発生することが多い腫瘍で、断脚だけでは90%以上で転移し、生存中央値が4〜5ヶ月、断脚+抗がん剤でも生存期間中央値は8〜12ヶ月でなかなか根治が難しい腫瘍です。
この腫瘍に関しても今年新しい研究報告がありました。
北里大学と東京大学の研究グループが、犬の骨肉腫に対して新しい治療の可能性がある新薬候補として抗体薬物複合体(トラスツズマブ-エムタンシン [T-DM1]、製品名:カドサイラ)の有効性を報告したのです。
この研究の中で、全ての犬骨肉腫細胞株においてHER2が発現していて、HER2を標的とする抗体薬に抗癌剤を結合させたトラスツズマブ-エムタンシン(T-DM1、製品名:カドサイラ)が抗腫瘍効果を示すと報告しています。
臨床応用はまだされていませんが今後の続報に期待したいところです。
メラノーマの新たな治療?
メラノーマは約80%が口の中や唇に発生し、病変が2cmを超えてくると中央生存期間は約4ヶ月程度と言われている非常に悪性度が強い腫瘍です。
メラノーマに関しては、2024年にオンセプトメラノーマⓇ(Oncept® Melanoma Vaccine)という世界初の動物用がんワクチンが日本でも条件付きで承認されました。
このワクチンに関しては、効く子と効かない子がいるものの、効いた場合は術後に使用することで数ヶ月〜1年以上の延命が期待できるケースもあると報告されています。
今の所、限られた施設でしか使用ができないことや、治療費の問題などがありますが国内で臨床使用ができる新しい治療法といえると思います。
最後に
今は、腫瘍の分野で免疫療法が盛んに研究されています。
まだまだ実用化できていないものも多いですが、今、治療してもなかなか余命を延ばせない腫瘍に新たなにできることが増えるかもしれないということが嬉しいことです。
なるべく早く治療法が増えてくれることを願って今回はコラムをまとめてみました!
それでは、また次回のコラムでお会いしましょう!

執筆者
2010年 北里大学獣医学部卒業
大阪、東北の動物病院を経て、
2015年~2016年 北里大学附属小動物医療センター研修医
2016年~2024年 大阪市内の動物病院の開業業務にたずさわり、院長として勤務
2024年 オンラインどうぶつ病院Talkvets立ち上げ