
もくじ
1. ごあいさつ
2.獣医さんが解説する気づかぬうちに腹水がたまる怖い病気3選
3.最後に
ごあいさつ

こんにちは。
オンラインどうぶつ病院Talkvets獣医師の前田です。
昨日はちょっととっつきにくい腹水の話をしましたが、今日はその続きのお話です。
実際に気づかないうちに腹水がたまることがある病気を3つ選んでご紹介しようと思います。
獣医さんが解説する気づかぬうちに腹水がたまる怖い病気3選

肝臓系(子犬さんで注意!)
子犬さんには腹水なんて無縁な感じがしませんか?
実はそうでもないんです。
その代表選手が(主に)わんちゃんの先天性の疾患の『門脈体循環シャント』です。
本来、腸管からの栄養はまず門脈を通って肝臓に運ばれます。
肝臓はその栄養を吸収して成長しつつ、代謝や解毒を行なってキレイになった血液を全身に送るという役割もあります。
この血流が肝臓を通る前に全身に流れてしまうのがこの門脈体循環シャントという病気です。
栄養がもらえないことで肝臓は成長できず、肝臓でつくられるはずのタンパク質が合成が十分に行われないために低タンパク血症に陥り、その結果、血中に水分をキープできずに漏れ出て腹水になります。
問題は、先天性のために発見が遅れることがあるということです。
教科書的にいうと、食後にぼーっとするという症状が出たり、体が小さい、肝臓が小さいなどの症状が出ると言われています。
ただ実際に診察していると、意外と食後の症状が目立たなかったり、体格も肝臓も小さめではあるものの正常の範囲内の子もいます。
概して、何かの症状で受診されて診断するよりは、去勢手術や避妊手術の術前検査などをきっかけに獣医さんが疑って検査をするパターンの方が多いように思います。
門脈体循環シャントは基本的に外科適用になる病気で、早期発見・早期治療が必要です。
ぜひ知っておいていただければと思います。
心臓系(大型犬で注意!)
わんちゃんが心臓系で腹水がたまるのは右側のお部屋に問題があるときです。
昔は右心不全といえば、フィラリアの寄生が多かったのですが、今は予防が広がって見る機会が減っています。
そこで一つ取り上げたいのが、心臓の腫瘍が原因で腹水がたまる病気です。
特に、ゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバー、シェパードといった大型犬で起こる病気として有名です。
その病気とは、心臓の右心房や右心耳にできる血管肉腫という腫瘍です。
この腫瘍の影響で右心不全を起こしたり、腫瘍の影響で心臓と心臓の膜の間に血様の液体がたまることで右心を圧迫して腹水がたまるという症状が出ます。
右心系は症状が比較的緩やかなのと、高齢期に発生することで加齢からの症状に見えて気づきかずに、腹水がたまってきて発覚するということも少なくないです。
消化器系(小型犬で注意!)
小型犬で取り上げたいのが、タンパク漏出性腸症(PLE)です。
タンパクが漏出することで低タンパク血症を起こし血管の中の水分保持できなくなり、腹水として滲み出てきます。
タンパク漏出性腸症(PLE)は炎症性腸疾患(IBD)に伴って起こることも多いので、下痢というイメージもありますが、実は炎症性腸疾患(IBD)のときだけで起こるというわけではないです。
リンパ管が拡張し、リンパ液と共にタンパクがもれ出てしまうリンパ管拡張症などでもタンパク漏出が起こります。
この場合は、下痢などの症状がほぼ伴わないまま低タンパク血症だけ起こってくるということもあり、腹水がきっかけで病気が発覚することもよくあります。
特に、ヨークシャテリアやマルチーズさんに多い疾患なので要注意です。
最後に
ちなみに、わんちゃんの疾患として書いているのですが、先天性の門脈体循環シャントはねこちゃんでも起こる病気です。
15年ほど診察していて、ねこちゃんの門脈シャントも2~3例出会っているのでわんちゃんよりは少ないけど、出会うことのある病気という印象です。
ねこちゃんもご注意くださいね。
それでは、また次回のコラムでお会いしましょう!

執筆者
2010年 北里大学獣医学部卒業
大阪、東北の動物病院を経て、
2015年~2016年 北里大学附属小動物医療センター研修医
2016年~2024年 大阪市内の動物病院の開業業務にたずさわり、院長として勤務
2024年 オンラインどうぶつ病院Talkvets立ち上げ